【興味深い記事】微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望


AIが、微妙な表情を読み取れる時代が来るのでしょうね・・でもリアルでも、マスク越しの表情は、目だけしか表情を読み取れるパーツがないので無表情に見えがちです。ズームカンファレンスなどだと余計にわかりにくいですね。

前回に引き続き、微表情研究の世界的権威デイビッド・マツモト氏が語る

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。前回に引き続き、表情分析の大家であるディビッド・マツモト(David Matsumoto)博士にインタビューさせて頂いた様子をレポートします。

 今回は、AI表情分析の妥当性、マスク越しの表情読みとりのコツ、オンラインにおける表情の役割について伺ったことを紹介します。

◆AI表情分析ソフトの真贋について
ーーAIを用いた自動表情分析アプリの妥当性や活用法についてご意見をお聞かせ下さい。

「私は、AI、コンピュータテクノロジーを用いた表情分析の能力をほとんど知っているつもりです。私の知っているテクノロジーの中で微表情が計測できるものはありません。全くと言ってよいぐらい、ないです。

 数年前、アメリカ政府が出資して様々な表情分析テクノロジーに関する研究開発プロジェクトがありました。私は、当時、トップにあった3つのソフトをテストするように依頼されました。

 真偽を話している人物を撮影し、その表情や微表情、シュラッグなどのジェスチャーを全てコーディングしました。

 コーディング技術を持つ専門家の視認では、真偽を明確に区別することが出来ました。しかし、ソフトの正解率は、50/50でした。チャンスレベルです。多くの開発元は「ソフトには妥当性がある」と言いますが、多くは静止画の表情を基にしたものであり、その分析結果から主張しているものです」

◆微表情の検知精度は、AIより人間の方が優秀
「しかし、ご存じのように表情は、実験で用いられている静止画の表情のように明確に表れるとは限りません。

 また、いろいろ複雑な動きがあり、余計な動きもあり、そんな中に微表情がパッと出て消えてます。

 こうした微表情を抽出できるソフトは、私の経験上ありません。微表情を一番検知できるのは人間です。ですので、微表情を読みとれる人間を訓練しているのです。このように私は確信しています」

<著者追記>
 例えば、ソフトを用いて、眉が中央に引き寄せられ眉間にしわが寄せられる顔の動きを計測したとします。計測するたびにソフトがこの動きがありますよと表示してくれれば、信頼性が高いソフトということになります。

 一方、この動きの意味は、怒りや熟考(他にもあります)です。この動きを検知したソフトが、この動きをした人物が本当は怒りの気持ちを抱いているのに「熟考」と表示させれば、逆に考えているだけなのに「怒り」と表示させれば、妥当性は低いソフトということになります。

 筆者の清水が関わるプロジェクトでは、この妥当性問題について慎重な検討をしていますが、国内で表情分析ソフトウェア開発や利用している多くの方々と話をしていると、正しく妥当性問題について理解している方は極わずかな印象です。

マスク越しでも表情は読み取れる
ーーZoomなどのオンライン越しのコミュニケーションにおいて表情の果たす役割は何だと考えますか?

「一対一のコミュニケーションとは違いますよね。何かを失うんです。こうしたテクノロジーでは、微表情は見にくいというか、見がたいというか、とにかく、ちょっと違うんですね。人間のコミュニケーションの進化の過程から、一対一のコミュニケーションの方が自然ですので、表情や微表情、色んな非言語情報が読みとれるわけです。

 Zoomやその他のビデオコンファレンスは、役割は変わりませんが、入手できる手がかりは少なくなる。入手できたとしてもタイミングが少しずれますよね。インターネットスピードによるし、コンピュータの性能にもよるし、色々なことに影響を受けます。レクチャーなどではオンラインでもオフラインでもあまり変わらないかも知れませんが、一対一のコミュニケーションでは普段よりゆっくり、お互い確認し合いながら、話し合っていくと適切にコミュニケーションがとれます」

ーーマスクで覆われた表情の読みとりのコツを教えて下さい。

マスクを着けていても読みとれる表情の部分は大いにあります。

 ですので、無理だと思わない。驚きの眉毛とか、恐れの眉毛とか、恐れの上まぶたとか、怒りの眉毛とか、嫌悪も観ることが出来ますよね。観れないのは口だけですよね。ですので、社会的微笑は観ることが出来ないですね。しかし、真の幸福表情は、目の周りの筋肉が収縮するので、観ることが出来ます。ですので、表情を観れないことはないのですが、慣れないといけません。

 顔全体に現れる表情を理解することが出来るならば、少し練習すれば、マスク越しでも表情を読みとることは出来ると思います。また、一対一のコミュニケーションならば、顔だけじゃなく、声も聴くことが出来るし、言葉もわかるし、姿勢や体の動きもわかるし、全ての非言語行動をとれるので、コミュニケート出来ると思います」

◆目の動きだけで表情が表れる実例
<著者追記>
 社会的微笑とは、いわゆる愛想笑いのことです。一般的には、目が笑っていない表情と呼ばれています。一方、真の幸福表情は、口角が引き上げられるだけでなく、目の周りの筋肉も収縮し、目尻にしわが寄る動きを伴い現れます。

 インタビューを終えての所感としては、微表情×AIが今後、益々ホットな話題になると感じました。

 筆者自身もこの分野に関わっていますが、日常・ビジネスだけでなく、犯罪捜査や安全保障にとって欠かせないテクノロジーに発展するのではないかと思います。

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<取材・文/清水建二>

【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院メディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システムコーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。



(出典 news.nicovideo.jp)